陸上に限らず、素人と経験者では動きが全然違うもの。
サッカーや野球と違って教則本がほとんどない陸上では、どこをどうすればそれっぽくなるのかは初心者にはなかなかわかりにくいはず。最低限これは抑えておこうという短距離の基本を細かいところは省きながらザックリ紹介。

とはいえ、走り方は十人十色。レベルが上がればまた変わって来るのでかならずしもこうではないので参考程度に。



①腿上げ(ももあげ)は古いでしょう
昭和の体育と言えばウサギ跳びと腿上げ。
スポーツ科学がまだ発達していなかったころは、トップアスリートの動きを見た目で分析していました。そのため、短距離の黒人選手が大きく腕を振り、高く腿(モモ)を上げる走り方こそが良い走りとされていたようです。

日本で腿上げが広まったのは、カールルイスのコーチだったトムテレツという人が日本で指導した際の通訳がいちうまく通訳できずに『腿上げとけばおっけー』のニュアンスだけが伝わったためとの説もあります。実際、カールルイスは高く腿を上げて走ってます。
そのため、古い指導者や中学校の顧問レベルだと『腕を振って腿を上げろ』と指導する人が今でも結構います。これが良いかどうかは別として、実は最近のトレンドは違います。
スポーツ科学が発達すると、『見た目の動きと意識する動き』的な概念が出て来ました。これを腿上げに当てはめて行くと、『腿が上がっている時には足を下げる動きを始めている』そうです。腿が上がり切る前にには意識と筋肉は下げる動きを始めているということ。
ちゃんと計測してみると、腿が高く上がる選手は足を降ろすスピードが速く、実際にはこれが走力につながっていたのです。
要するに、意識的に腿を上げて走ると足を下げるのが遅れるのであんまり良くない。腿が高く上がるのは足を降ろすスピードを上げるための副産物。

最近では、腕や足を高く上げるのではなく、素早く降ろす動作を意識させるようになっていて、『腿を上げろ』ではなく、『切り替えを速くしろ』とか『動きにメリハリをつけろ』と指導する人が多いです。結果的に腿は高く上がります。こういう動きをしているとそれっぽく見えます。




②つま先接地・フラット接地を知りましょう
実際はつま先というか拇指球ですがそれは置いといて、子供だってダッシュの時はつま先で走ると思います。多分本能的にそうなってます。陸上でもそうです。スパイクもつま先にしかついていません。最近では『フォアフット』とかいう言い方で市民ランナーがつま先接地で長距離を走ろうとしたりもしてます。
が、初心者が200mくらい走ると、筋力が足りないので最後の方はつま先以外のところも接地します。じゃあ頑張ってつま先だけで走れるようにするのが良いのかと言うと、これも最近ではちょっと違う考え方があります。
ここ10年くらいのトレンドは『フラット接地』というやつです。接地を拇指球だけではなく、土踏まずの真下あたりで行うイメージの走り方です。あくまでイメージ。

これがメジャーにしたのは世陸200mと五輪4継の銅メダリストである末續慎吾。彼がこの『フラット接地』と『バンチスタート』を武器に世界と戦ったことで注目されるようになりました。当時は『ナンバ走り』とも。
ザックリ言えば、普通は短距離は『腿を高く上げてつま先で蹴る』ものですが、『腿を上げずに足の裏全体で押す』というのがこのフラット接地、ナンバ走りです。
その影響は日本限定であったため、今でも国産スパイク(特にミズノ)ではフラット接地向けのスパイク作りがされていて、海外スパイクに比べて傾斜が少なく、プレートが軟らかいです。良いか悪いかは不明。

フラット接地のメリットとしては『大きい筋肉を使って走れる』事。つま先で走ることを意識すると、どうしてもふくらはぎの小さい筋肉を使う動きになってしまうのですが、フラットで接地することで腿の裏の大きい筋肉を使える。また、体幹の力もうまく使える。さらには重心移動をスムーズに行えるので接地による減速が少ない。らしいです。

結局どれが良いのかはわかりません。いろいろ試してみましょう。かかと接地はダメ。




③手はパーにしましょう
意識してパーにすると力んじゃうので、かるくパーにして手先には力を入れずに走るのが良いとされています。
しかしながら、黒人選手はものすごいパーです。




④1軸走法・2軸走法を知りましょう
運動素人には全くなじみのない言葉ですが、最近ではサッカーや野球でもこの理論が一般的になっています。2軸理論を発展させた『4スタンス理論』というやつのほうが有名かもしれません。『骨ストレッチ』とかもけっこう近いかも。
理論として指導されていなかった時代でも、選手は経験的にこれを使っていて、例えばサッカーではカーブとストレートを打つ時では軸足の置き方が全然違いました。わかりやすいのでは、『俊輔のカーブ』と『コンフェデの中田』。
俊輔はカーブを蹴る時に軸足を体の重心の真下に置いて大きく体をねじります。これが1軸。
中田は蹴る瞬間に蹴り足に体重を移し、蹴り足に乗りこむように着地します。これが2軸。

キレイな1軸。誰がどう見ても軸がイッポン。
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50秒当たりからスロー。蹴った後に蹴り足に乗りこむ。
 

俊輔もパワーをかけたストレートを打つ時は軸足体重の2軸になります。
野球だと、外人選手が後ろ重心のフルスイングでホームランするようなのが1軸で、イチローが打ったあと前のめりに走り出すのが2軸。
テニスではエアケイが2軸の動きです。
要するに、腰を回すと1軸、肩と腰のラインが回らないと2軸。

陸上でもこれを応用します。
レーンをまたいで走ると自分がどっちだかわかります。1本のライン上に接地するのが1軸。ラインを踏まずにまたいで接地するのが2軸。1軸はヘソの真下に接地。2軸は足の真下に接地。
2軸の方が体幹を使うとされています。末續慎吾のナンバ走りは2軸のことで、彼は同じ側の手と足を出して走ると言ってます。

正面から見た時に接地足をどこに置くか。左が1軸。右が2軸。どっちが良いかはわかりません。
軸




腸腰筋(ちょうようきん)を使いましょう
最近はダイエット番組とかでもこれが出て来るので知ってる人は多い。腰の回りにあるいわゆるインナーマッスルで、インナーマッスルブームの火付け役。これを鍛えるとダイエットになるらしいけど、たぶんそんな簡単には痩せない。
骨盤と太腿を結ぶ筋肉群のことで、足を前に出す時に重要な筋肉です。ここの筋肉を意識するだけで、腿上げをしなくても腿がしっかり上がる(前に出る)できるようになります。
全身の力を抜いて片足立ちをして、浮いてる足の膝を90度にして下さい(フラミンゴ的なポーズ)。で、浮いてる足を軽く上げたり下げたり。そうすると前側のモモの付け根でグリグリ動く筋肉があるはずです。これが腸腰筋片足立ちをして軽くその場ジャンプ5回、足を入れ換えて5回。これを何回もやってるとだんだん腸腰筋に乳酸が溜まってくるのがわかると思います。



⑥踏み切り足は効き足の逆にしましょう
幅跳びをするときにどっちで踏み切るのがいいのでしょうか。答えは簡単。効き足とは逆の足です。右利きの人は左で踏み切りましょう。
なぜかというと、効き足というのは振り足だから。振りまわすのが得意な足なんです。
効き足と逆になる軸足は伸ばした状態で使うのが得意な足です。よって、振り足を振って、軸足で踏み切るのが良いとされています。



⑦末端はあんまり鍛えないようにしましょう
陸上は走るので下半身が大事です。それはそうなんですが、末端が太い(重い)と走るのは遅くなりますし、力んで動きが固くなります。ふくらはぎはあんまり鍛え過ぎない方が良いです。スパイク履いて走れば勝手に鍛えられるので基本的にはそれで十分。同様に、握力を鍛えてもあんまり良い事はありません。



⑧地面を蹴らず、反発で走り、接地を短くしましょう
土のグラウンドでは反発がないため、足首を使って地面を蹴って走りますが、競技場では反発を利用した走り方の方が速いです。基本的には足首は固定。足で地面を蹴るイメージではなく、足は地面に置くだけのイメージにしてゴムボールのようにポーンポーンと弾んで走ることを心がけましょう。必然的に接地時間は短くなります。
接地時間の短さとスピードには相関関係があります。



⑨地面は叩くのではなく押すイメージにしましょう

接地のイメージは叩きつけるのではなくてグッっと押す感じにしましょう。



⑩軸を前傾させましょう
簡単なようで意外と深い前傾。見た目の前傾と軸の前傾がありますので違いを押さえましょう。
・見た目の前傾
その場で立って足を揃えたまま思いっきり前傾してみましょう。多分、前傾姿勢になります。このとき、つま先に体重が乗っているはずです。できるだけ前傾をかけるとかかとは浮く勢いだと思います。これが見た目の前傾姿勢。実はこれでは本当の前傾は取れていません。
・軸の前傾
見た目の前傾姿勢をしとった状態(つま先に体重が乗っている状態)をつくり、そこからかかとに体重を移してみましょう。そうすると立っていられずに前に一歩踏み出してしまうはずです。これが軸の前傾。

走る時には軸が前傾していなければ意味ありません。見た目の前傾しかできていないのか、軸の前傾までできているのかという違いはかなり大きい。
無題

左は見た目では前傾していても、軸は直立。これじゃあ無意味。かかとに踏み替えると軸が前傾するから前に一歩出てしまう。この一歩出ちゃうのを繰り返すと力を使わずに前に進みます。これが前傾。



⑪腕は振り下ろしましょう
腕を大きく振るのは良いのですが、振り方にも色々あります。高く振り上げるようにすると腕が流れて体が開いてしまいます。
腕を振る時には、下ろす時にグッと力を入れて、その反動で上に持ちあがるように意識しましょう。大きく振るのではなくて、素早く下ろす。そうすると勝手に大きく上がって来ます。肘の角度が変わらないように(下で伸びすぎないように)気を付けてください。



⑫力まず走りましょう
陸上は、筋肉でパワーをかけるのではなくて、腱が反発することによる力を使って走ります。腱は急激に伸ばされると反射で強く収縮するように出来ています。いわゆるバネ。
腱は筋肉の先端の骨と繋がっているところにあるので、力んでしまうと(筋肉を使ってしまうと)健の動きも制限されてしまいます。
筋肉の出すパワーよりも腱の出すパワーの方が大きいため、力まずに健の力をつかって弾むように走るのが速い。