全日本実業団対抗女子駅伝競走大会予選会、通称プリンセス駅伝(笑)が2018年10月21日(日)に開催。TBSで中継され、ワイドショーを賑わすトラブルが発生しました。
このプリンセス駅伝は、上位14位に入れば全日本実業団対抗女子駅伝競走大会への出場権が得られる大会で、いわゆる予選会。予選会なのにテレビ中継があるなんて、駅伝人気ってすごいですね。
競争区間は6区で、
1区 7.0km
2区 3.6km
3区 10.7km
4区 3.8km
5区 10.4km
6区 6.695km

全部で42.195kmを走る、箱根駅伝とかに比べればかなり短い駅伝。ちなみに全日本実業団対抗女子駅伝も同じ距離です。男子のニューイヤー駅伝は100km。
要項はこれ


そんな大会で、優勝候補の岩谷産業の2区の飯田怜選手が転倒、その後四つん這いで200mほど移動し、膝から血を流しながらも次の選手にタスキを繋ぐという、なかなかショッキングな映像が流れました。
それだけでも話題になるのですが、終了後に選手が脛骨(全治3~4カ月)を骨折してたことが判明し、大会運営や監督がやり玉に挙げられて叩かれる事態となっております。

また、3区ではトップだった三井住友海上の選手が脱水(?)でフラフラになって明らかにヤバい感じに。そのまま倒れ込んで棄権になりました。

その後ワイドショーはこのニュースでもちきり。いろんな専門家がいろんな意見を言ってます。
飯田選手の方を中心に思う事。




いろんな意見まとめるとだいたい4つ

①美談にするな論
②監督・審判はなぜ止めないんだ論
③骨折しても走るなんて日本社会のブラックさの象徴論
④別にそんなもんだろ論


①美談にするな論

スポーツの怪我や脱水は美談として後々語られることが多い。
たぶん、一番有名なのはロス五輪(1984年)の女子マラソンでアンデルゼン選手(スイス)が脱水でフラフラになりながらもトラックを歩き切ってゴールしたシーンだと思う。ちょっと前まではオリンピックの感動シーン特集みたいなのの常連だったけど、ここのところあれは生死にかかわるっていう意見が多いからか、テレビで流れることは少なくなった。まあ、実際ヤバいと思う。選手は『ヤバかったから他の大会なら棄権しただろうけど、オリンピックだから頑張った』的な事を言っている。
同じくロス五輪の柔道では山下泰裕選手が肉離れを押して出場、優勝している。それこそ美談。
クールランニング(映画)のラストだって感動するだろ!!

そんな感じで、ヤバい状態でも頑張っている姿をみると感動する。箱根駅伝だってフラフラになりながら時間ギリギリでタスキをつなぐのが毎年のハイライトになる。駅伝は特性上そういうドラマが起こりやすいから面白いともいえる。
それがあるから視聴率が高いし人気がある。人気があるから大学が力を入れるし選手も増える
実業団スポーツは社会貢献でもあるけれど、宣伝の一環という面もある。もし、駅伝がなにも起こらずただただ人が走るだけのスポーツであったならば、これほどまでに人気はなかっただろうし、選手層も厚くならない。
もし、転んだらすぐに棄権、脱水の兆候があればすぐに棄権という風になってしまえば、正直いっておもしろくない。もちろん、原理主義的な話ではなく、選手の命が最優先だし選手生命に係るような場合はすぐに監督が止めるべきだというのは前提。ただ、今回はどうか?
過剰に安全性を重視したスポーツになってしまうと視聴率もとれないだろうし、TV中継が無くなれば駅伝を辞める実業団も出て来る。そうなると選手も困る。
ある程度のエンターテイメント性は必要であって、しょうがない部分はあると思う。そのバランスや見せ方は駅伝に限らず日本のスポーツに足りない部分。アメフトは人気スポーツで選手は大金持ち。

ここ数年、夏の気温が35度を超えるようになったため、熱中症や脱水症状がスポーツをやっていない人にも認知されるようになった。
脱水→生死にかかわる→絶対にダメ
という認識が一般化した。なんの関係もない人達が甲子園大会が熱いから危ないって言っている。
昔なら脱水になってもバケツで水かけとけばいいとか、日陰で休ませて回復したらまた練習するっていう程度の認識だったものが、今どき部活でそんなことをさせて倒れでもしたらニュースになる。
そんなことで、フラフラになった選手の『頑張っている姿』を、美談として扱うことが悪いことのような風潮がある。たしかに熱中症は危ない。
飯田選手の場合は熱中症ではなく、
転倒→くじいた?→歩けないからハイハイでゴールを目指す
というもので、実際、命の危険は無かったと思う。それでも、『フラフラになった選手はすぐに棄権させろ』というのが時代の意見だろうか。
それは痛々しくて自分が観ていられないから?

熱中症対策にポカリ飲むレベルの素人と、中学時代からケガや暑さと戦いながら走り続けてきたトップ選手達とではケガや熱中症に対する認識の次元が違う。越えちゃいけない一線は選手自身や監督がちゃんとわかってる。わかっていて、ギリギリでやるのが競技スポーツ。
飯田選手のは大丈夫だと思うけど、岡本選手のフラフラはすぐに止めるべき事案だったと思う。


②監督・審判はなぜ止めないんだ論

四つん這いで進む選手の横には審判がいて、止めることも出来たと思う。監督は離れたところにいたようだが、審判団に止めるように要請していたらしい(伝わったのがゴール直前だったため、結局は止めなかった)。
岡本選手も審判員に水を渡されながらフラフラ行ったり来たりしていたので、止めることは出来た。
青山学院の原監督が『私だったら止めた』という趣旨の発言をしたことがワイドショーで取り上げられたため、自体が悪化している。
わかる。
ここ数年は箱根駅伝でも監督判断で早めに棄権することが増えたと思う。昔は足をくじいて引きずっていてもゴールまで頑張っていたが、今は将来のために棄権させる。
実際これはもう監督判断なのでなんともいえない。審判にストップをかけろというのはおかしな話。

ただ、考えて欲しいのは飯田選手は19歳ではあるけれど実業団選手であり、社会人であること。
大学生とは違う。ヤバいと思えば自分で判断して棄権できるだろうし、それでも走りたいのであれば走れば良いと思う。
飯田選手は、『足が痛いから這って行く』という選択を自分でしたわけで、結果その姿は痛々しかったが、それを見て批判するのはいかがなものだろうか。膝の擦り傷はすぐ治る。
岡本選手の方は監督サッサと止めろよと思う。


③骨折しても走るなんて日本社会のブラックさの象徴論

中継では転んで足をくじいたからハイハイで進んだんだと思われましたが、終了後に脛骨を骨折していたことが判明。『歩く衝撃だけでも涙が出るほど痛い』とか『どんなに痛くてもチームの為に頑張らないといけないなんて軍事国家』みたいな事を言う人も現れた。
まあ、実際痛いでしょう。
脛骨の骨折がどんなレベルのものなのかは知りませんが、脛骨の疲労骨折であれば陸上選手では珍しくない。練習であれば休むでしょうが、もしレース、それも全国大会の予選の直前に剥離骨折がわかったのであれば強硬で出場することもあるでしょう。特に、2区は3.6kmと短い。
正直、脛骨骨折ならだましだまし走れば走れる。悪化はするけど。
たぶん疲労骨折なので、骨折は骨折でもポッキリ逝った骨折とはちょっと違うというのを考えた方が良い。
ブラック企業で辞めもせずに文句言ってるだけの人間と実業団までのし上がったスポーツ選手を一緒にしてはいけない。
でも岡本選手の方はサッサと止めろよ。


④別にそんなもんだろ論

だいたいのスポーツは過酷。ハードルの選手が転んで肩を脱臼して泣きながら歩いてゴールすることもある。
長距離は特に過酷。練習でフラフラになることはあるし、ゲロ吐きながら走るのも普通。
ラグビー選手はみんな鼻が曲がってる。
そんなことで、学生時代に部活でガッツリやっていた人の中には、一般人にとってはショッキングなことでも、それに慣れている人達がいる。それはそれで感覚がずれてる。
そんな人達からみても岡本選手は止めた方が良かったと思うだろう。


個人的には

文字通り這いつくばってでもタスキを繋いだ飯田選手の頑張りは尊敬する。大人になってあれほどまでに頑張れる人は殆どいないと思う。
①美談にするな論
②監督・審判はなぜ止めないんだ論
③骨折しても走るなんて日本社会のブラックさの象徴論
④別にそんなもんだろ論
についてはそれぞれこう思っている。

美談にしろは言わないが、連日ワイドショーで批判されるほど運営も監督も悪くないと思う。脚を怪我したのであれば這って行くというのはなにも悪いことではない。ルール上問題は無いし、命にもかかわらない。転んだらといってリタイアさせられていたらそのほうがかわいそう。彼女は彼女でそれだけ大会にかける思いがあったんでしょう。
リレーで肉離れした選手が歩いてバトンをつないだら、会場では拍手が起こる。それがスポーツマンシップだから。距離は違えど駅伝でも同じこと。現場の熱とテレビ越しの熱は全然違う。
いけるかダメかは選手・監督にはその限度がわかるはず。
岡本選手の方は完全にアウトだから監督が悪い。


選手を何だと思ってるんだろうか。選手は子供ではない。
19歳ではあれど、学歴関係なく陸上を通して立派な大人になっているからこそ実業団に所属している。選手が這ってでも行きたいのであればそれを尊重すべきだ。
極度の脱水なら無理にでも止めるべきだが、選手は審判に中継所まであと何メートルか聞いたらしい。思考が停止していたわけではないので、リタイアは選手と監督の判断に任せればいいと思う。自分の判断でリタイアしなかったのだから選手の判断を尊重するべきだと思う。
監督がストップをかけているのに運営が止めなかったのであれば、それはまた別の問題。単純に運営が悪いということになる。
岡本選手の方は思考停止してるから監督の責任。


考えがもう古いのかもしれないが、ホビーでやるのと違って競技スポーツはツライものと思う。だから引退後みんな競技から離れる。駅伝は特に出場選手が多いから、日本ランキング100位にも入らない人も走る。そういう人がトップ選手と張り合おうと思えば脱水も疲労骨折も起こるだろう。選手もそれがわかっていて、ギリギリを探っている。実業団選手は実質的にプロと同じようなもので、次はない。負ければ再就職の可能性もある。
ブラックなところで文句を言いながらも居座っている人と違って、選手は自分で厳しい環境を選んで追い込んでいる。一緒にしちゃいけない。
三井住友海上は名門ゆえにブラックな面があるんだろうと思う。


そんなもんだと思う。駅伝でフラフラなのは今にはじまったことじゃない。特に女子駅伝は毎回フラフラになる人が出る。
ただ、流血ハイハイは『ゲロ吐いて走る』ような事を想像もしない普通の人達には衝撃的過ぎたと思う。
岡本選手はだれが見てもアウト。


長距離ならフラフラもしょうがないと思う一方、このままではスポーツの発展を妨げてしまうかもしれないとも思う。
今の世間はスポーツの素晴らしさではなく、危険性や異常性ばかりを感じているようだ。『這いつくばってでもやる』を地で行った姿を見て、その異常な光景に引いてしまう。そういう社会で育てば、スポーツ選手を志す人は減っていくだろうし、限界を超えてでも頑張ることは出来なくなると思う。
本当にヤバいのか、頑張ればいけるのか、その判断はテレビを観ているだけでは難しい。
だからこそ、本当に危険なときにはしっかりとドクターストップをかけられるようにガイドラインの改正、あるいはルール変更が必要な時期にきている。
個人競技はもうリタイアしかないけど、駅伝なら区間リタイアした場合は区間最下位のタイムに数分のペナルティを加算して繰り上げスタートとか、いくらでもやり方はある。

開催前から熱中症がヤバいと言われている東京オリンピックのマラソンでフラフラする人が出た時、このままでは今回以上に批判的な意見で溢れるだろう。
実業団駅伝とオリンピックでは主催も違えば運営管理も全く別だが、一般視聴者からしたらそんな違いは関係ない。フラフラになれば『またテレビで走ってる人がフラフラになってて危険』でしかない。オリンピック委員会は今回の騒動を他人事としてではなくちゃんと生かして欲しい。
東京オリンピックがボロクソに言われる大会になってしまったら東京人として悲しい。東京オリンピックを観て、スポーツ選手になりたいという子どもがたくさん出るような大会になってほしい。
海外からは何も言われないだろうけど、日本国内には東京オリンピックの批判に命をかけている人達がいる。そういう人たちを黙らせられるだけの準備をするべきだ。